X線の安全基準に関する質問主意書 平成12年9月
X線の安全基準に関する質問主意書
一、 ICRP一九九〇年勧告の国内法制への取り入れの進捗状況はどうなっているのか。
二、 医療診断に用いられるX線の人体へのリスクをどう考えているのか。
三、 医療診断に用いられるX線の安全基準はどういうものか。
四、 胃ガン検診、乳ガン検診、肺ガン検診のそれぞれの検診一回あたり総計して、X線はどれくらいの線量が照射されるのか。
五、 医療診断に用いられるX線について、放射線被爆の蓄積による人体へのリスク管理を医療行政としてどのように取り組んでいるのか。
六、 医療診断に用いられるX線について、放射線被爆の蓄積により癌になるのは、総計でどれくらいの線量を照射したときか。また、癌になる可能性も含めて明らかにされたい。
右質問する。
●質問3への回答書
衆議院議員長妻昭君提出X線の安全基準に関する質問に対する答弁書
一について
国際放射線防護委員会(ICRP)の千九百九十年勧告(以下「勧告」という。)の国内制度等への取り入れについては、放射線審議会における審議を経て、現在、関係省庁において、平成十三年四月一日の施行を目途とした関係法令の改正作業等を行っているところである。
二、三及び五について
勧告においては、「医療被ばくは普通、被ばくする個人に直接の便益をもたらすことを意図している。その行為が正当化されており、かつ、防護が最適化されていれば、患者の線量は医学上の目的と両立する程度の低さであろう。」とされており、エックス線を用いて診断を行う場合には、適切な臨床判断に基づき、エックス線撮影により得られる診断情報の量と質を確保するとともに、患者、操作者等の被ばく線量を合理的に達成できる限り低く保つことが重要である。このような考え方の下に、薬事法(昭和三十五年法律第百四十五号)第四十二条第二項に基づく医療用エックス線装置基準(昭和五十一年厚生省告示第二百三十八号)においてエックス線装置の構成、規格等を定め、医療法施行規則(昭和二十三年厚生省令第五十号)においてエックス線装置の防護、エックス線診療室等の構造設備等を定めている。エックス線を用いた診断がこれらの基準等を遵守して適切に行われた場合は、通常患者にエックス線被ばくによる悪影響が生じる可能性は小さく、患者が受ける便益は不利益を上回るものと考えている。また、医療法(昭和二十三年法律第二百五号)第二十五条の規定に基づき、都道府県知事等が病院等に対する立入検査を実施し、エックス線装置の防護等が適切に行われているかどうかを確認している。
このほか、労働安全衛生法(昭和四十七年法律第五十七号)に基づく電離放射線障害防止規則(昭和四十七年労働省令第四十一号)においては、エックス線装置を取り扱う労働者の放射線障害を防止することを目的として、エックス線装置の防護、直接透視時及び間接撮影時の防護措置、労働者の被ばく限度、労働者に対する安全衛生教育及び健康診断の実施等を定めている。
四について
平成十年三月に財団法人日本公衆衛生協会が取りまとめた「がん検診の有効性評価に関する研究班報告書」によれば、がん検診一回当たりの被検者の被ばく線量は、検診施設や被検者の体格等の違いによって多少の増減はあるが、胃がん検診が約〇・六ミリシーベルト、乳がん検診が約〇・一ミリシーベルト、肺がん検診(胸部間接撮影)が約〇・〇五ミリシーベルトであるとされている。
六について
放射線の被ばくによる発がんについては、しきい線量(影響が生じる最小の被ばく線量)は存在せず、被ばく線量の増加とともにがんの発生確率が増加すると考えられている。また、単位被ばく線量当たりのがん発生確率は、被ばく時の年齢、被ばくした臓器又は組織等により大きく異なる。勧告によれば、全身に均等に放射線を被ばくした場合の全年齢を通じた平均値として、被ばく線量一シーベルト当たりの致死がんの発生確率は約五パーセント、非致死がんの発生確率は約一パーセントであるとされている。