格差と日本社会

格差と日本社会~力の発揮を促す社会政策が持続可能な経済政策となる~

所得の多い家庭の子どものほうが、より良い教育を受けられる傾向があると言われるが、これは問題か?」――。
皆さんはどう思うのだろうか。

格差と日本社会

教育格差を問題視しない意識ひろがる

教育格差を問題視しない意識ひろがる

小中学生を持つ保護者に対する調査で、10数年前までは、「問題である」と考える人が半分以上いたが、その比率は低下して直近の調査では4割を切っている。これは全国公立の小2、小5、中2の保護者に対する意識調査の結果(ベネッセ・朝日新聞共同調査)。この調査は2004年から定期的に続けており、2017年12月~18年1月調査で4回目。所得による教育格差を許容する保護者が増えて初めて6割を超えた。
現実には年収400万円以下の家庭では4年制大学進学率は3割を切る一方、825万円を超える家庭では6割を超える(2012年文部科学省科学研究費による東京大学調査)。年収250万円未満の世帯では4年制大学進学率は推計2割との調査(2015年日本学生支援機構調査)もある。
県民所得と大学進学率が比例し、どこに住んでいるかによって受ける教育に差がつく現実がある。日本は先進国の中で、教育の自己負担比率がトップレベルである。
この教育格差を問題視せず、是認する意識が高まっていることに強い危機感を持つ。このまま放置してはならない。
教育格差は経済にとってもマイナスの影響を及ぼすことが国際機関の調査でも実証されつつある。
「格差の放置は経済成長を損なう」――。近年、経済協力開発機構(OECD)や国際通貨基金(IMF)が相次いでこのような調査リポートを発表した。OECDは追跡調査が可能な加盟21カ国の長期時系列データを分析した。
原因として、「所得格差は人的資源の蓄積を阻害することにより、不利な状況に置かれている個人の教育機会を損ない、技能開発を妨げる」(OECD)と教育格差の観点をあげる。ノーベル経済学賞を受賞したスティグリッツ教授も持続可能な成長のためには「格差と戦う」ことが重要であると説いた。

格差は経済成長にマイナス

格差は経済成長にマイナス

経済成長を論ずる際には、この格差の問題と正面から向き合うことが重要になる。
日本は格差を示す指標の一つである相対的貧困率でみると、主要先進国では米国に次いで格差の大きな国となっている。
一方で、子育てや教育にかける予算は先進国の中で、国内総生産(GDP)比では最低レベルだ。この底上げは急務である。
どんな環境にあっても、十分な教育が受けられる社会を実現するという社会政策は、重要な経済政策でもあるのだ。実際、最近では政府の子育て支援や教育投資の経済効果を数値化する研究も進んでいる。
雇用分野の格差拡大も、経済にマイナスの影響を及ぼしている。非正規雇用を増やせば、“雇用の調整弁”となり、国際競争力も高まる――。1990年代に経済団体が打ち出した雇用の多様化論を真に受けて、どんどん非正規雇用を増やした結果、雇用者全体の4割を超えるまでになった。しかし、皮肉なことに職業訓練が十分でなく、技能の高い労働者の減少に拍車をかけた。
日本の稼ぐ力を示す労働生産性は今やOECD加盟国中20位まで低下している。内閣府は、労働生産性への影響について私の質問に文書で見解を示している。少々長いが引用する。
「非正規雇用者は正規雇用者に比べて職業教育訓練による人材育成機会が少ないとみられることから、非正規雇用比率が高まると、必要な技能や労働者の熟練の蓄積がなされず、労働の質が低下し、労働生産性を押し下げる可能性がある」とした。政府も非正規雇用の増大による労働生産性低下の可能性を初めて認めた。
この他にも日本では、性別によって賃金や処遇が大きく異なるなど先進国では考えられない格差が数多く存在する。
一人ひとりの力の発揮を邪魔する“格差の壁”を取り除くことこそが、持続可能な経済の実現にもつながる。一人ひとりの力や持ち味が発揮される環境は、多様な価値や生き方が認められる差別のない社会があってはじめて実現する。
経済成長にとっては、金融・財政・規制緩和政策のみならず、このような社会政策が不可欠である。社会政策は、結果として持続可能な経済政策となることを見過ごしてはならない。