(長妻昭が中心となり、取りまとめた目指す社会像。取りまとめた当時と長妻昭が目指す社会像の基本は今でも変わっていません。)
共生社会創造本部
最終とりまとめ(概要版)
能力の発揮を阻む
“格差の壁”を
打ち破り、
支え合う力を育む
~公正な分配なくして持続可能な成長なし~
経済成長は目的ではなく、あくまで一人ひとりが安定した、幸せな人生を過ごすための手段である。本来の目的を達成するためには、「公正な分配」による「人への投資」をすることで、結果として持続可能な成長をもたらす。
現在、グローバル経済拡大による競争の激化、行きすぎた雇用の規制緩和などにより、格差の拡大が止まらない。私たちが、問題とする格差は、個人の努力ではどうあっても乗り越えられず、諦めと絶望を呼ぶ格差である。それが、“格差の壁”となり、人々の能力の発揮を阻み、社会の基盤や経済の潜在力を弱めている。将来の希望を奪う“格差の壁”は、ますます高く厚くなっている。富とチャンスが一部の人に偏る一方である。
もとより格差は特定の人の問題ではない。安定した生活を送っていた人が病気、事故、障害、失業、離婚、子育て、親の介護などにより、経済的な困難に直面し、或いは社会的に弱い立場に立たされる可能性は誰にもある。
「がんばる人が報われる社会」は当然であるが、しかし、いくら、がんばろうと思っても、がんばることができない環境に追いやられている人々がたくさんいることを忘れてはならない。格差が親から子へ引き継がれ、固定化し、階層の世襲化や、貧しい者と豊かな者に二極化する分断社会化が進んでいる。将来に希望を抱くことのできない社会に未来はない。
このような現状にも関わらず、社会の変化に適合した「公正な分配」がなされていない。理不尽な格差を生まず、一人ひとりが安定した社会で幸せな人生を過ごすという政治の目的を達成する手段が「公正な分配」である。
「人への投資」を軸とする「公正な分配」を通じて、“格差の壁”を打ち破り、人々の安心と意欲を増し、一人ひとりの能力が最大限発揮できる社会を実現することが政治の責務である。同時にそれは人間の基盤を固め、互いに支え合う力を生み出し、分厚い中間層を復活させる。結果として、幸福のための持続的な経済成長が実現できる。格差拡大で、子どもや若者を潰しておいては成長などできない。「公正な分配なくして持続可能な成長なし」である。
特に貧困に苦しむ子ども、非正規雇用から抜けることのできない若者、差別に苦しむ女性に対する強力な支援が必要である。高齢者の貧困・格差問題も、現役時代の格差が引き継がれていることに大きな要因がある。高齢者になる前の現役世代の段階から、“格差の壁”を取り除くことが重要である。
“格差の壁”を取り除くことで支え合う力が生まれる。この支え合う力が、絆(社会関係資本)を強め、多様性を認める、すべての人に「居場所」と「出番」のある共生社会創造につながる。
「格差の小さい先進国のモデル国家」の実現を通じて、共生社会を創造する。
(1)目標の設定
「格差の小さい先進国のモデル国家」の実現に向けて、以下の目標を設定する。
- 相対的貧困率
⇒ 目標 11.3% ★OECD平均 - 子どもがいる現役世帯(大人が一人)の貧困率
⇒ 目標 31.0% ★OECD平均 - 被用者に占める非正規雇用の割合
⇒ 目標 30%以下(特に不本意非正規雇用の減少に重点を置く) *平成2年は20%
(2)教育格差の壁を打ち破る~「子どもの貧困」と戦う
チルドレン・ファースト/教育格差の壁を打ち破る/子どもの貧困と戦う
社会全体で子育てを支援するとの理念の下、全ての子どもたちが健全で、安心できる環境で育つことができるようにしなければならない。「子どもの貧困」といわれる状況を一刻も早く解消するために、財政面を含めた公的な支援を大胆に拡充する必要がある。 特に親から子に引き継がれる貧困の連鎖を止めることは急務である。日本では生活保護世帯の子ども、4人に一人が成人しても生活保護から抜けることができない実態がある。 また、日本は、先進国の中で教育予算の対GDP比が最低レベル、親の自己負担額は最高レベルである。教育格差の壁を取り除くために、特に就学前教育や大学など高等教育に対する負担軽減策を実行する。 「子どもの貧困対策法」に盛り込まれた理念を着実に具現化するべく取り組む。
- 児童扶養手当の大幅拡充
- 渡しきり(給付型)奨学金の創設
- ひとり親家庭支援事業の強化
- 子ども手当(児童手当)の拡充
- 貧困状態にある子どもの学習支援
- 学校における子どもの貧困対策の強化
- 多様な教育機会の確保
- 就学前教育の充実
- 児童相談所の機能の抜本的拡充
- 里親制度の推進
(3)雇用格差の壁を打ち破る
若者の能力が最大限発揮できる社会/不本意非正規ゼロを目指す
90年代からの非正規労働者の急増は我が国の格差問題の大きな要因であり、同時に多くの若者の能力を埋没させていることは大きな損失である。“雇用の調整弁”として拡大した非正規雇用は今や4割を超え、ワーキングプアを生み出している。これが、労働生産性を引き下げる要因にもなっている。 一日中働いていても貧困から抜け出せない状態、夫婦共働きでも貧困から抜け出せない状態は解消すべきである。ワーキングプアを無くし、フルタイムで一生懸命働いている人が貧困に陥ることがないようにしていく。結婚率も非正規雇用者は正社員の半分であり、結婚できない若者が増えていては少子化の流れを変えることはできない。 (参考データ)生涯未婚者は男性で5人に一人、2030年(平成42年)には男性の3人に一人に急増する見込み 統計上、はじめて就いた職が非正規雇用であるのは男性3割、女性5割
- 有期雇用の入り口規制を導入する
- 最低賃金を引き上げる
- 介護職・保育職の待遇を改善する
- 社会保険の適用拡大
- 在学中の職業能力育成の抜本的拡充
- 求職者支援制度を改革し、資格取得支援を強化する
- 社会人に対する教育機会提供の拡充 学校での社会人再教育推進
- 「起業倍増計画」による「ドチャベン」の支援
- 低廉な若者向け(単身含む)公営住宅の整備
(4)男女格差の壁を打ち破る
差別を無くす/女性が働きやすい社会
女性に対する差別や経済的な不利益を解消し、社会における女性の立場の向上を図ることが重要であり、同時に女性の価値観を十分に反映させることで活力ある社会の実現に繋げる。またジェンダー平等教育を通じ、子どもの段階から男女共同参画社会への理解を深めるようにする。
- 「同一価値労働同一賃金」の法定化
- 選択的夫婦別姓を実現する
- 低年金者に対する支援
- DV、性犯罪等の被害者に対する支援強化
- 子どもを産み育てやすい働き方、イクメンが可能な職場を創る
- 妊娠期から就学までワンストップ支援
- 養育費の支払い拡大
(5)長時間労働の壁を打ち破る
「世界一働きやすい国」でなければ、「世界で一番企業が活躍しやすい国」は実現できない。ブラック企業ゼロ・過労死ゼロの社会を実現する。
- 労働時間規制の強化・インターバル(休息)規制の導入
- ブラック企業ゼロ 企業及び事業所ごとの働き方情報の開示
- 技術革新で変容する職場への対応
(6)様々な格差の壁を打ち破るため共通政策
- 「公正な分配」を実現するための税と社会保障の仕組みの見直し
- 「生活困窮者自立支援法」の拡充
- 雇用をはじめとする障がい者政策の更なる充実
- 税による再分配機能の強化
- 格差是正を主眼とする給付付き税額控除の導入
- 安心政策の目玉、総合合算制度の創設
- 性的マイノリティー(LGBT)支援
- 再犯防止
- 貧困・格差に関する各種調査・分析
- 地域主権型社会への転換
「GDPに占める公財政教育支出の割合をOECD平均並に引き上げること」を含め、共生社会の創造に向けた更なる政策を実現していくため、既存歳出の見直し、所得課税・資産課税の累進強化を含む税制の見直しを進めていく。
格差を是正するという観点からは、それ自体が格差是正策でもある所得課税、資産課税における累進性の強化や控除制度の見直しを進める。負担増をお願いする際には、負担増の部分が、公正な分配として、“格差の壁”を取り除くことに使われ、社会全体の底上げにつながることを粘り強く説明・説得し、理解を得る努力をする。
その他、歳出の効率化、疾病・介護の予防強化などの歳出の見直し、社会保険料の応能負担の強化、資産等の捕捉や徴税事務の効率化などを財政健全化の観点と合わせて推進する。
多くの政策で実施主体となる地方自治体の財源確保のあり方について、地域の事情に応じた柔軟な財源確保策が可能となるよう、検討を続ける。
以上の政策によって、理不尽な“格差の壁”を取り除くことで、一人ひとりの能力が発揮され、支え合う力が生まれる。この支え合う力を育むことが、絆(社会関係資本)を強め、お互いの多様性を認める共生社会創造につながる。
自らの能力、収入、時間を、自己だけでなく他者を支える糧とする。そんな人々の厚みを増し、一人ひとりが公共を支えていく。この「新しい公共」を広げることによって、孤立化を防ぎ、「誰も置き去りにしない社会」である共生社会を創造する。
(1)地域の支えあいネットワークで「支え合いを支える」仕組みを作る
市区町村を軸に、地域の実情に応じて原則、小・中学校区を単位として、様々な分野(*)が参加する、地域の支え合いネットワークの構築を支援する。
支え合いネットワークは、例えば、一人暮らしの高齢者、障害者世帯などの見守りを担う。また、行政が把握できず、表面化しない地域の貧困や格差、子どものいじめや虐待の問題の兆候を見つけ、支援し、必要があれば行政に繋ぐ役割も担う。
一人暮らしの高齢者や要介護者、障がい者などの情報を支え合いネットワークが効果的に共有できるよう、各自治体に個人情報法保護の条例改正を促し、必要があれば法改正を進める。
地域の支え合いネットワークと、地域包括支援センターとの連携・活用も検討する。
*様々な分野とは、例えば、福祉・医療・介護関係者・利用者、保育・教育関係者、民生委員・児童委員・婦人相談員、保護司、保健所などの地域の福祉を担う方々、町会、消防団、商店会、商工会、郵便局、宅急便業者、新聞販売店などに、NPOも加えた個人、事業者、団体などである。
(2)住民、地域の団体、自治体を結ぶ「コーディネーター」の存在
貧困、差別、いじめなどは表に出ないことが多く行政では把握しにくく、また地域の関係性が希薄化していることから、困難な状況にありながら誰にも相談できずに苦しい状況から脱することができない場合がある。特にいじめ、ストーカーなどの問題については行政が事なかれ主義を排して、より積極的に対応していくことが必要である。さらにきめ細かく、早い段階から支援の手を差し伸べていくために、地域の事情に精通し、ネットワークを持っている存在が極めて重要である。現在でも地域に根付いた様々な分野の専門家やNPOなどがコーディネーター(橋渡し役)として活躍する事例は多いが、「世話焼きおじさん、おばさん」なども含めて、さらに多くの人材が共生社会のコーディネーターとして活躍できるよう、人材の養成に取り組んでいく必要がある。
コーディネーターを地域の宝と位置づけ日々の生活で気づいた地域の問題を行政に容易に伝達できる仕組み、それぞれの情報を共有・融合させることで地域の問題を早期に発見し、解決する仕組みを構築する。
(3)休眠預金の活用 マイクロファイナンス等
新しい公共推進のインフラとして、休眠預金を活用し、世界最大のマイクロファイナンスを実現するとともに、NPOや社会的企業を支援する。
(4)共生社会を担うNPO法人等への支援の拡充
共生社会を担うNPO法人等の活動を支援する以下の措置を検討する。
- NPO法人が実施する介護サービス事業については社会福祉法人の場合と同様に非課税とする措置
- NPO法人についても一般社団法人と同様に基金制度を使えるようにする
- NPO法人などを支援するために自分の納税する住民税の一部について市町村を通じて寄付する仕組み
(私たちの現状認識) 増大する格差の弊害
我が国は、長く経済大国でありながら、格差は拡大し、未だ長時間労働も解消されず、地域や家族をはじめとする社会の支え合う力が弱くなっている。その結果、社会や経済の基盤が揺らいでいる。
我が国の場合、経済の長期低迷、国際競争の激化の中でリストラが繰り返され、これに過度な規制緩和による非正規労働者の急増が加わったことが、格差拡大の大きな要因となった。
相対的貧困率でみると、日本はG7では米国に次いで二番目に格差が大きい国となってしまった。終身雇用の慣行の中で安定した収入を得られていた層が縮減し、働き盛りの世代でも不安定な職で不十分な収入しか得られない層が拡大した。現在では非正規労働者は労働者全体の4割を超え、また統計上、男性で初めて就いた職が非正規雇用という割合が3割となっている。
非正規では能力、スキルを向上させる機会が乏しく、また相対的に賃金が上がらないことから、本人はもとより経済全体としても労働生産性にもマイナスとなる。非正規労働者の結婚率は正規労働者の半分以下に留まり、生涯未婚者の割合が男性で現在の5人に1人から、20年後には3人に1人になると見込まれている。
また、離婚は、90年代に急速に増加し、現在では夫婦3組に1組の割合まで増加し、格差拡大の一因となっている。離婚などの理由で、ひとりで子育てを担うことになった、ひとり親家庭は半分の世帯が貧困状態(生活保護世帯並みの収入)にある。ひとり親家庭の相対的貧困率は約50%となり、OECD各国の中でも最悪の状況となっているのだ。
親世代の非正規労働増加、離婚などによる一人親家庭の増加などにより、就学援助(生活保護世帯並み収入が要件)を受ける子どもたちは150万人を超え、一部の地域では公立の中学生の5割になっている。また生活保護受給世帯の子どもの4人に1人は、成人した後にも本人が生活保護を受給する「貧困の固定化」の傾向も明らかになっている。
先進国で最も脆弱な奨学金制度の下、年収400万円以下の世帯の大学進学率は3割と低く、日本の大学進学率はOECD平均を下回っている。県民所得と大学進学率もほぼ比例する関係となっている。
格差が我が国最大の資源である人材の能力発揮を阻害し、現役世代の不安を高め、将来世代に「貧困の固定化」を押しつけている。その結果、経済の活力が失われ、社会の安定を損なっている。
OECDの実証研究によっても、格差の拡大が人々の能力の発揮を阻む等の理由で、経済成長の足を引っ張る、ということが報告されている。これら、格差の経済に対するマイナス効果の報告が相次ぎ、格差の弊害は先進国で共有されつつある。「人への投資」による格差是正策は、分厚い中間層を復活させ、結果として、中長期的に経済成長にも資することとなる。
(私たちが最終的に目指す社会) 共に生きる社会 共生社会の姿
これまで述べた個々の政策を実現した先には、どんな社会があるのか。「共に生きる社会」つまり、「共生社会」が実現すると、どんな姿が見えてくるのか。
少子高齢化がさらに加速して、国民の中位数年齢も50歳に近づきつつあり、世界で最も“成熟国家”となった日本。これから少子高齢社会を乗り切るモデル国家となるために、どのような社会を目指すべきなのか。
当たり前ではあるが、まず、何より国民が幸福でかつ、その幸福が持続可能なものである社会にしなければ活力など生まれない。
かつて政府は、幸福度指数の検討会議を開催した。幸福度指標の調査では、家族、地域、職場、学校といった私たちが参加する社会集団のそれぞれで一定割合の人が孤独感を感じており、孤独感の高い人は幸福度が低い、社会的課題の解決にかかわっていたり、関心を持っていたりする人は、そうでない人よりも幸福度が高いという結果が出た。
ひとり一人に社会の中で何らかの「居場所」と「出番」があって社会に参加できる。社会と自分とが何らかの形でつながっていると感じられる。自分がこの社会で必要とされていると実感できる。
そんな社会を作り、幸福度を上げ、真の豊かさを実現するには、従来の量的経済成長一辺倒とは異なる価値の具現化が欠かせない。
人への投資を通じて、“格差の壁”を取り除き、すべての人に「居場所」と「出番」のある社会を実現する。結果として、一人ひとりの能力の発揮を促し、民主主義や経済の基盤を固めることにつながる。人々の間の信頼や絆も深まっていく。
人々がより社会とつながりを持つようになれば、これまで支えられる側だった人々が支える側に回るケースも出てくる。少子高齢社会が危機感を持って語られるのは、支えられる側が増加して、支える側である現役世代が減少して、財政がパンクするという文脈である。
しかし、高齢者等を支えられる側と決めつけずに、支えられる側が無理なく、週に一日でも、支える側に回ることのできる仕組みである、「支え合いを支える社会」を作ることで、持続可能な社会となる。
多様な価値観を認める、多様性の確保も欠かせない。日本を一つの価値観に染め上げて、強い者をより強くする国づくりは、一見、強い国に見えるようで、折れやすい国ではないか。“格差の壁”を取り除き、一定の余裕のある生活の中で、他者を思いやる心を育むことが多様な価値観を認めることにもつながる。多様な価値観を認めて、「居場所」と「出番」のある社会が積み重なることで、折れにくくしなやかで真に強い国となる。
ひとり一人がかけがえのない個人として尊重された上で、そのひとり一人の集合体が社会となり国を形作る。国のために個人が存在するのではない。あくまで個人のために国が存在するのである。
誰もが相互に人格と個性を尊重し、多様なあり方を認め合い、共に支え、支えられる社会を作る。これが、「共に生きる社会」、「共生社会」である。